きらんのShooting Voice!!

ちょっと胸おどる素敵なこと なにかあるたび書きとめておくの。

2期6話・夏美さん勧誘シーンの面白さを語りたい。

※この文章は「ラブライブ!学会 アニメ・楽曲考察本(第1回学会誌)」に掲載させていただいた文章を記事用にリメイクしたものです。

 

 

 

みなさんオニナッツー。きらんと申します。

 

今回は『ラブライブ!スーパースター‼』2期6話「DEKKAIDOW!」の肝となるシーンである、澁谷かのんさんによる鬼塚夏美さん勧誘シーンを解剖し、その魅力に迫ってまいりたいと思います。

2期6話、めちゃくちゃ好きな話なんですけど、肝心の内容について深く掘り下げた文章を書いたことって思えばそんなになくて。3期が始まる前に自分なりにまとめて書き残しておきたいな、と思い筆をとった次第です。

よろしければお付き合いください。

■シーンの構成

一連のシーンの一番の見どころは間違いなく夏美さんの心情の繊細な変化であり、夏美さんがLiella!への加入を決意する「始まりの瞬間」の輝きなわけです。

そして、そのダイナミックなシーンに説得力を持たせているのは、縁の下の力持ちであるかのんさんの存在にほかありません。かのんさんの行動・言動のひとつひとつを彼女の視点で分析することで、その裏で密かに行われている駆け引きを理解することができ、この話数をより楽しむことができるのではないでしょうか。

この記事では、そんなかのんさんに着目して、各言動を掘り下げ、「なぜ勧誘を行う選択をしたのか」「なぜかのんさんでなければならなかったのか」について自分なりに解釈してまいりたいと思います。そんなわけで、夏美勧誘シーンの範囲と構成を定義させていただくことにいたしましょう。

本稿では、かのんさんが「それより、スクールアイドルやってみない?」というセリフを発するところから、夏美さんが笑顔でかのんさんの手を取るまでを「夏美勧誘シーン」とさせていただきます。

これは、劇伴「夢の予感」が流れているシーンとほぼ一致します。劇伴の知識がある方は、そちらを参考に記事を読み進めていただいても構いません。

「夏美勧誘シーン」は「森のシーン」「ラベンダー畑のシーン」の二つに大きく分けることができるでしょう。また、かのんさんの台詞の目的を踏まえると、「森のシーン」は「勧誘」「拒絶への応答」、「ラベンダー畑のシーン」は「想いの確認」「最後の一押し」の計4つのチャプターに分けることができると考えます。それでは、各チャプターについて解説してまいりましょう。

■森のシーン・勧誘

「それより、スクールアイドルやってみない?」

一連のシーンは、かのんさんによる一言を皮切りに開幕します。このチャプターの前提条件を整理していきましょう。この台詞を誘引するきっかけとなったのは、夏美さんの「夢に破れ続けてそれを諦めてきたバックグラウンド」です。

私は、この前提を踏まえたうえで、夏美さんをスクールアイドルに勧誘する行為には二つの要件が伴うと考えています。

第一に、彼女を勧誘するうえでスクールアイドルという方法を提示するには、彼女がスクールアイドルに一定の関心を抱いていることを理解している必要があります。

第二に、彼女の昏いバックグラウンドを理解したうえでスクールアイドルという新たな夢を押し付けるには、スクールアイドル活動に内在する「叶える力」への強力な信頼が必要です。

まず、かのんさんが夏美さんのスクールアイドルへの一定の関心を理解しているかについて。かのんさんは同話にて、後輩を強く気にかけるような描かれ方をされています。また、その後二期生の練習動画を観て強い安心・喜びを抱くような描写がありました。これを踏まえると、彼女がその後にアップされたであろう二期生の練習動画を積極的にチェックしている可能性は高いとみて取れるでしょう。

一方、夏美さんについて。彼女は、動画の撮影中、そこへ映り込んでスクールアイドルの練習に参加する素振りを見せています。肝なのがしっかりその動画に夏美自身の練習風景も映り込んでいるというところ。その日のオニナッツチャンネルには、自分自身の練習風景を含んだ動画がアップされたことでしょう。

これにより、「①かのんさんがオニナッツチャンネルをチェック→②夏美さんのスクールアイドル活動への参加を把握→③夏美さんがスクールアイドル活動に関心を示していると解釈」という一連の流れが成立しえます。かのんさんは第一の要件を不自然なく満たしていると言えるでしょう。

また、スクールアイドルの「叶える力」への信頼について。アニメ1期では、彼女らの「私を叶える物語」へのスクールアイドル活動の貢献と、「みんなで叶える物語」の萌芽が描かれています。この過程で紡がれたエピソードは、一期生が彼女らの中でスクールアイドルと「夢」を結び付けるのに十分ですよね。

このチャプターについての論点をまとめると、夏美さんの勧誘に至れる条件は、①夏美さんのスクールアイドルへの関心を確認する方法と確認できる精神的前提をもち、②スクールアイドルに内在する「叶える力」を信頼している、という条件を満たした者であり、かのんさんはもれなくこれらを満たすということです。

■森のシーン・拒絶への応答

「私はこれまでたくさんの夢をみてきて何も叶わないって分かったんですの」

かのんさんの勧誘に拒絶を示す夏美さん。直前の寂しげな表情から、かのんさんの勧誘はかなり効いているようですが、夏美さんはそれでも折れません。

その返答はあまりにも強烈すぎる自己卑下でした。きっと多くの人は、この拒絶に対するクリティカルな応答が叶わず、折れてしまうところなのではないでしょうか。

しかし、かのんさんは違いました。彼女もまた、夢が叶わぬ悔しさを身をもって経験してきたから。スクールアイドルが、もう一度夢を見ようとする者の背中を押してくれることを知っていたから。

「でも可可ちゃんやみんなが教えてくれた。みんなとなら、頑張れるよって!」

ついに大きく表情を崩す夏美さん。しかし、その表情は明るいものではありませんでした。いまかのんさんの手を取れば、もしかしたら変われるかもしれない。自分の心のときめくままに、全力で夢を追いかける、そんな「新しい私」に出逢えるかもしれない。

でも、それ以上に彼女の内面を支配するのは、過去のトラウマから来る強烈な不安感。もう一度あの哀惜を、屈辱を味わうこととなる可能性への拒絶反応。

「私なんかが本当にそんな輝かしい夢を掴めるだろうか?」

夢に揺らぐ夏美さんの回答に先んじて、かのんさんは彼女の手を引きます。

「来て!」

さあ、ここからが彼女の腕の見せ所ですよ。

■ラベンダー畑のシーン・想いの確認

彼女らがたどり着いたのは、ほの暗いラベンダー畑。

「私を真似して」

かのんさんが夏美さんに求めたのは、自分が踏んだステップを真似ること。夏美さんは一瞬の戸惑いののち、素直にその指示に従います。

さて、このシーンを受け取った人の中にはこう思った人もいるのではないでしょうか。「この人たち、なんでこんなことしてるんだ?」と。じゃあ逆に質問させていただきます。どうしてこのシーンが成り立っていると思いますか?

このシーンが違和感なく成り立ったのは、夏美さんにかのんさんのステップを概ね真似ることができる実力があったからです。きっと私は、かのんさんに「私を真似して」と言われたところで、即座に真似ることなんて到底できません。この文章を読んでいるみなさんの大半も、きっとそうなのではないかと思うのです。

じゃあどうして夏美さんは真似ることができたのか。想像に容易いですね。他の二期生とともにスクールアイドルの練習に参加して、そのスキルを身につけたからです。

彼女はお遊びで練習に参加していたのではなかったのです。少なくとも、かのんさんの無茶ぶりに即座に対応できるだけの実力を得るに至っていた。

作中から正確に読み取れるわけではありませんが、きっと合宿開始からかのんさんとの邂逅に至るまでの期間なんて一朝一夕です。夏美さんは、そんな短い期間でスクールアイドルの基礎をある程度詰め込んだわけですね。運動が大の苦手なはずの彼女がです。

きっと夏美さんには、他の二期生たちとの練習を通じてスクールアイドル活動への熱量が生まれていたのです。きな子さんたちの抱くスクールアイドル活動への強い想いが、彼女にも伝染していたのです。そして、かのんさんはそれを感じていた。

オニナッツチャンネルにUPされていた動画で気づいたのでしょうか?それとも、実際に彼女と会って話してみてから?

真相は定かではありませんが、きっとこのシーンは夏美さんのスクールアイドル活動への想いの確認のために存在していると思うのです。かのんさんの予感は見事的中、夏美さんのスクールアイドルへの熱量を確信するに至り、ついに勧誘は最終フェーズに突入します。

■ラベンダー畑のシーン・最後の一押し

「そうすると、客席の人たちも心の中で一緒に踊ってくれるの。ステージ全てがひとつになる」

最後にかのんさんが説いたのは、「踊り」によって心を結ぶことの素敵さです。

かのんさんにとって、スクールアイドルで最も重要な要素は「歌」であることが予想されますが、このときのかのんさんは「踊り」を前面に押し出したパンチラインを繰り出しました。

それはきっと、夏美さんのスクールアイドルへの熱量の根源が「他の二期生たちとステップを合わせた」ことにあることを知っているから。「踊り」こそが夏美さんのはじまりのトキメキだから。夏美さんは「ダンシングココナッツ」なのです

ついに夏美さんの中で「夢への希望」が「夢への不安」を上回り、彼女はかのんさんの手を取ります。それを祝福するかの如く、鮮やかなラインが引かれるラベンダー畑。ど真ん中でひときわ輝く色は鬼塚夏美さんの夢の色、オニナッツピンクなのでした。

■まとめ

ここまで、かのんさんの行動に主軸を置き、2期6話における彼女らの心情を掘り下げてみました。

冒頭でもお話させていただいたように、この話数は裏で彼女らの間で行われている駆け引きを理解することでより深く理解し、楽しむことができると思っています。

なんなら、私はスーパースター!!2期のエピソードは総じてこの傾向があると考えます。台詞として表出される内容が全てではない。直接的な言葉と同じくらい、ないしはそれ以上に、彼女らの行動がものを語り、繊細に導線が結ばれている物語なのです。

だからこそ、その中に詰め込まれているメッセージは、実質的な内容は、形式的な尺以上に遥かに質量が大きく、面白い。そんなワンクールに仕上がっているのではないかと思うんですよね。

だからこそ「なぜ?」を感じたときにそこについて掘り下げていくことにより強い意義がある。私はこの作品のそういうところがたまらなく好きです。